はじめに：財務改善が求められる背景
企業の成長を左右する大きな要素のひとつが「財務改善」です。十分なキャッシュフローが回らなければ新たな投資や人材育成に踏み切れず、結果として経営基盤が脆弱になります。とくに中小企業の場合、税理士に会計や決算を一任しているケースが多いのも事実です。もちろん税理士は税務の専門家として欠かせない存在ですが、財務改善そのものを包括的にサポートしてもらえるかといえば、そうとは限りません。
実際、中小企業庁の調査によると、日本の中小企業の約40％以上が「資金繰りが厳しい」と回答しています。景気変動や取引先の廃業など、どの企業もリスクに直面する可能性があるなか、財務改善をどのように進めるかは喫緊の課題です。本記事では、「財務改善 税理士 違い」という視点から、税理士によるサポートの限界や、より効果的な財務改善の進め方について探ります。
第1章：財務改善が必要になる背景と課題
財務指標の悪化が意味するもの
売上が伸び悩んだり、固定費がかさんだりすると、バランスシートや損益計算書に不安要素が映し出されます。自己資本比率の低下やキャッシュフロー不足は、資金調達を難しくし、次の成長ステップを踏みにくくしてしまいます。
さらに、営業利益率が落ち込み出すと、日常の運転資金を回すだけで精一杯になり、新規事業や設備投資を検討しにくくなるでしょう。日本政策金融公庫のデータによれば、創業から5年以内の企業の約半数が資金繰り問題を経営上の大きな壁と捉えているといいます。
キャッシュフロー不足が生む悪循環
キャッシュフローが回らない状態だと、短期借入に頼るシーンが増えます。借入返済に追われて資金に余裕がなくなると、本来であれば実施したかった新製品開発やマーケティング活動が後回しにされることも。結果的に売上向上の好機を逃し、財務改善はますます遠のく、という悪循環に陥るのです。
経営者の“数字がわからない”問題
財務指標や決算書の分析に苦手意識がある経営者も少なくありません。数字に苦手意識があると、どうしても「税理士に任せておけば大丈夫」となりがちです。しかし、税理士の業務範囲は“税務面”が中心。後述しますが、税理士にすべてを任せた結果、せっかくの改善チャンスを逃してしまうケースもあります。
第2章：税理士にできること・できないこと
税理士が果たす大きな役割
税理士は、納税や税務処理など、企業が避けては通れない法律面のプロフェッショナルです。具体的には、下記の業務を担います。
- 決算書や申告書の作成
- 税務署とのやり取り（書類提出、税務代理など）
- 税制改正や減税措置の活用アドバイス
専門知識を持った税理士がいないと、会計処理の手間が増え、法律違反のリスクも高まります。だからこそ多くの企業が顧問税理士をおき、一定のコストを払ってでも安心感を得ているわけです。
税理士が対応しきれない領域
一方で、税理士のメインフィールドは税務・会計です。経営計画や新規事業の立ち上げ、資金繰り改善策の実行支援など、経営戦略に踏み込んだサポートが得意とは限りません。たとえば次のような領域は、税理士任せでは対応が薄くなるケースが多いです。
- 経営計画の策定・KPIの設定
- キャッシュフローを生むビジネスモデル構築
- 他業種の成功事例を踏まえた経営改革
もちろん、税理士のなかにはコンサル要素を兼ね備えた方もいます。ただしそれは個々の知識・経験に大きく左右され、必ずしもすべての税理士が対応できるわけではありません。
第3章：税理士任せにしない財務改善のポイント
経営者が主体的に数字を把握する
まず大切なのは、経営者自身が自社の財務状況を主体的に把握することです。たとえば毎月の資金繰り表をチェックし、予算と実績のギャップを確かめるだけでも、経営判断のスピードは格段に上がります。
- 損益計算書（PL）の推移を把握：どの商品・サービスの収益性が高いか
- キャッシュフロー計算書（CF）の分析：実質の現金収支がどう動いているか
- 貸借対照表（BS）の変化：借入金や在庫、資産構成の変化をチェック
数字にアレルギーがあると「税理士に一任」という流れになりがちですが、経営者が現状を把握しない限り、改善策を打ち出すのは難しいでしょう。
戦略面の見直し：税理士に頼れない部分
次に重要なのが、経営戦略そのものをどう組み立てるかです。財務改善は「支出を削る・節税する」という短期的な対症療法だけでは限界があります。
- 市場の変化に合わせ、商品・サービスを再編する
- 利益率を高めるための価格戦略やコスト構造の見直し
- 社内体制（組織や人材育成）の強化
これらは、経営コンサルタントや「シェア型経営顧問」といった形で、企業の実情に即して伴走する外部の力を借りるほうが進めやすい場面が多いです。税理士は税務処理や会計のプロですが、本質的な経営改善を指揮するのは経営者自身です。
シェア型経営顧問の活用
「税理士と違うアプローチで財務改善を見直したい」と感じたとき、注目されるのがシェア型経営顧問という存在です。月額制などの形で、専門知識を持つ外部コンサルタントやプロ人材が経営会議や財務戦略の検討に継続的に参加してくれます。
- 自社にはない視点を入れ、客観的に数字を分析
- 幹部や経理担当だけでなく、全社的に改善策を共有
- 必要に応じて、他業種の成功事例や他社ノウハウを転用
税理士の領域をしっかりカバーしつつ、経営戦略と結び付けた財務改善ができるのが大きな強みと言えるでしょう。
第4章：具体事例から学ぶ財務改善の成功ポイント
ここでは、2つの事例を挙げながら、税理士だけでは十分にカバーできなかったポイントをどのように突破したかを見ていきます。
事例1：A社――固定費削減と新サービス開発でV字回復
企業概要:
中小の製造業で、受注が減り始めて資金繰りに余裕がなくなっていた。
課題:
- 税理士に依頼して決算書を作成していたが、黒字倒産のリスクが浮上していた。
- 原価率が上がっているにもかかわらず、改善策が打てない。
打った施策:
- 月次管理会議の導入：経営者とシェア型経営顧問が一緒に利益率、在庫、固定費を月ごとに分析
- 新サービス開発：製造設備を部分的に転用し、既存の営業ルートとは違う販路を開拓
成果:
- 3か月後には在庫管理システムの導入によって、倉庫コストが約20％削減
- 半年後には新サービスが売上の15％を占め、キャッシュフローが改善
税理士からは「消費税や法人税の試算・申告」など、会計面のサポートは受けていたが、事業戦略へのアドバイスは得られなかったという。そこを埋めたのが、外部顧問による経営面への伴走型サポートだった。
事例2：B社――借入返済に苦しむも、収益構造転換で再生
企業概要:
地方の小売店を複数展開していたが、競合が増えて売上が漸減。
課題:
- 借入返済が逼迫しており、毎月のキャッシュフローがギリギリ
- 税理士からは「経費の節減」を勧められるも、人員削減をすると売上がさらに落ちるリスクが
打った施策:
- 新規客獲得のためのデジタル施策：店舗サイトやSNSを活用し、オンライン注文や宅配サービスをスタート
- 金融機関との交渉：シェア型経営顧問が経営計画書を一緒に策定し、リスケジュール（返済条件の変更）を実行
成果:
- 新規客の取り込みに成功し、売上は1年で20％増加
- リスケ対応後の資金繰りは安定し、黒字経営へ転換
税理士が作成した決算書はベースとして活用しながら、経営改善策の立案と実行フォローは外部コンサルの得意分野だったという。このように、税理士と経営顧問の役割を明確に分けながら協力するのがポイントだ。
まとめ：財務改善を進めるうえでのチェックポイント
- 数字を定点観測し、経営戦略と結び付ける
- 税理士に相談するだけでなく、事業や組織改革まで踏み込んだ改善策を打つ
- 必要に応じてシェア型経営顧問など外部の専門家を積極活用
財務改善は、単にコストカットや節税を行うだけでは本質的な解決にならないケースが多いです。経営トップや財務担当が主体的に動き、経営戦略や組織づくりと併せて進めることで、はじめて大きな効果を生み出します。税理士が得意とする税務面のサポートと、戦略・組織面をカバーする外部コンサルの支援を上手に組み合わせることで、強固な財務基盤を築きましょう。
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