「SNSでバズっているインフルエンサーに1回投稿してもらえば、お客さんが来るはず」——そう考えて予算を組んだものの、思ったほど数字が動かなかった経験はないでしょうか。私はハンバーガー専門店「WORLD BURGER」を複数店舗運営していますが、近年、この手法の費用対効果が明らかに落ちてきていると感じています。
結論から言うと、理由は単純です。ショート動画・リールが上手いインフルエンサーほどフォロワーが急増し、発信そのものが有料課金化して単価が上がる一方、フィード投稿は新規リーチが弱いため、費用対効果が悪化しているのです。その結果、私が今もっとも重要度が増していると感じているのが、店舗・オーナー個人の「自社アカウント発信」です。この記事では、出店場所を選ぶ際に私が使っている「空中戦」「地上戦」という考え方を軸に、なぜインフルエンサー依存の集客が効きにくくなり、なぜ自社発信に力を入れるべきなのかを、実体験ベースで整理していきます。
「空中戦」と「地上戦」、両方揃わないと出店は厳しい
私が出店場所を選ぶとき、判断基準にしているのが「空中戦」と「地上戦」という2つの軸です。
- 空中戦:Web検索・SNS経由で、その街全体にどれだけ遠隔の需要があるか。「〇〇 ハンバーガー」で検索する人がその街に対してどれだけいるか、という話です。
- 地上戦:人通り・視認性による物理的な店舗集客力。看板が目に入る、たまたま通りかかる、といったリアルな来店動線です。
この2つがどちらも揃っているのが、繁華街・観光地・商業施設のような「遊びに来る」「特別な食事をする」エリアです。逆に、職場や学校、住宅街のような「日常」を過ごすエリアは、そもそも対象外だと考えています。日常の中で「今日は非日常のグルメバーガーを食べよう」とはなりにくいからです。
そして、私が実際の出店で痛感してきたのは、空中戦と地上戦のどちらか一方が欠けると、出店はかなり厳しくなるということです。過去の出店を振り返ると、地上戦(人通り・視認性)が弱いテナントを選んでしまったケースが少なくなく、その分をWeb集客でカバーしようとして、結果的にWeb集客への依存度が高くなりすぎていたという反省があります。
なぜWeb集客(空中戦)だけに頼った出店は苦戦するのか
ここが今回一番伝えたいポイントの入り口です。空中戦がどれだけ強くても、地上戦が弱いテナントでは、お客様は「わざわざ検索してまで来る」というハードルを毎回超えなければなりません。SNSで見つけて興味を持っても、実際に店の前を通りかかる機会がゼロなら、来店のきっかけは常にオンライン発の1回勝負になります。
これに対して、地上戦が強い立地なら、SNSを見ていない人にも「たまたま通りかかって入ってみた」という来店経路が生まれます。空中戦だけに頼った出店は、この「偶然の来店」がまるごと発生しないため、集客のすべてをWeb施策の成果に賭けることになり、構造的にリスクが高くなるのです。
この考え方は業態によっても濃淡があります。私の持論ですが、ラーメン屋はどの駅前でも成立するほど普遍的な強さがある一方、グルメバーガーは観光地・繁華街等の限定されたエリア以外では極めて出店が難しいという業態特性の違いがあります。例えば池袋なら勝負できても、隣駅の椎名町・東長崎では厳しい、というのが実感です。日常使いされやすい業態ほど地上戦への依存度は下がりますが、グルメバーガーのような「特別な食事」枠の業態は、地上戦の強い立地でなければ、空中戦(Web集客)でどれだけ頑張っても埋め合わせが効きにくいと考えています。
インフルエンサーに頼るSNS集客は、なぜ効きにくくなってきたのか
この「空中戦への依存リスク」を、ここ最近さらに強く感じさせている変化があります。ショート動画・リール中心のインフルエンサーマーケティングが、以前ほど機能しなくなってきているという実感です。
理由は次の2つです。
- ショート動画が上手い人ほど、発信が有料課金化する:バズるのが上手いインフルエンサーは、当然フォロワーが急増します。フォロワーが増えれば増えるほど、その人に依頼する企業案件の単価も上がっていき、以前と同じ予算では同じ効果を得られなくなります。結果として、依頼するコストに対して得られるリーチ・来店効果が見合わなくなり、費用対効果が悪化していきます。
- フィード投稿は新規リーチが弱い:一方で、リールほどバズらないフィード中心の発信は、既存フォロワーには届いても新規の目には触れにくく、集客の起爆剤としての力が弱くなっています。
つまり、「バズる人に頼めば安く広くリーチできる」という以前の前提そのものが崩れてきているというのが、実際に複数のインフルエンサー起用を検討・実施してきた中での実感です。この「発信力のある人ほどコストが上がる」という傾向は、業界全体でも指摘されている部分があります。マイクロインフルエンサー(フォロワー1万〜10万規模)の起用がコストパフォーマンスに優れるとされる一方、フォロワー規模が大きくなるほど単価が上がっていく傾向は、複数のマーケティング会社の分析でも共通して言及されている点です(外部記事:インフルエンサーを起用した広告の効果・費用対効果を徹底分析)。
結果として重要性が増しているのが「自社アカウント発信」
この状況を踏まえて、私が今、力を入れる優先度を上げているのが、店舗・オーナー個人による自社アカウントでの発信です。外部のインフルエンサーに集客を委託する構造は、その人のフォロワー増加とともにコストが上がっていく宿命を持っています。それに対して、自社アカウントは、育てるのに時間はかかっても、フォロワーが増えたからといって発信コストが上がることはありません。長期的に見れば、自社で発信力そのものを資産として積み上げていく方が、空中戦を安定的に強化する手段になると考えています。
特に複数店舗を運営している場合、店舗ごとに個別のインフルエンサー予算を組み続けるのはコスト的にも管理的にも重くなります。オーナー個人・店舗の自社アカウントであれば、複数店舗の情報を横断的に発信でき、1つのアカウントを育てる労力が全店舗に効いてくるという点でも合理的です。
もちろん、自社アカウントを立ち上げてすぐに大きなフォロワー数がつくわけではありません。ここは正直なところ、時間のかかる投資です。ただ、外部のバズった人に依存するコストが右肩上がりに悪化していく構造と比べると、自社発信は「今から始めても、遅すぎることはない」選択肢だと考えています。
「地上戦」を味方につけた出店の実例
空中戦(Web集客・自社発信)の重要性の話が中心の記事ですが、地上戦を最初から味方につける出店の工夫についても触れておきます。私が運営する新潟店・浜松店は、既に飲食店(バー・居酒屋)を営んでいたオーナーの既存物件を活用して出店しました。新潟店は夜はバー営業、ランチのみワールドバーガーという営業形態、浜松店も既存バーの内装を活かし、営業時間帯で使い分けています。
この方式のメリットは、初期投資がほとんどかからず、ケースによっては最短1ヶ月で投資回収できたことです。すでにその場所で商売をしてきたオーナーの物件を活用するということは、その立地にすでに一定の地上戦(人通り・地域での認知)が存在しているということでもあります。ゼロから地上戦の強い立地を探し当てるのではなく、「既に地上戦がある場所」に相乗りする形で出店するという考え方は、低リスクで出店する一つの現実的な選択肢だと感じています。
自分の店に当てはめて確認したいチェックリスト
- 今の立地(またはこれから検討している立地)は、「遊びに来る」「特別な食事をする」エリアか、それとも職場・学校・住宅街のような「日常」エリアか
- 自店の集客は、空中戦(Web・SNS経由)と地上戦(人通り・視認性)のどちらに偏っているか
- 地上戦が弱い立地の場合、その分をWeb集客だけで埋め合わせようとしていないか
- インフルエンサー起用にかけている予算は、フォロワー規模の増加とともに費用対効果が悪化していないか
- 店舗・オーナー個人の自社アカウントは、育成に時間を投資できているか(外部起用だけに頼っていないか)
- 新規出店を検討している場合、既に地上戦のある物件(居抜き・既存事業者の物件活用等)を選択肢に入れているか
まとめ
出店の失敗、そして集客の伸び悩みは、多くの場合「空中戦」と「地上戦」のどちらか一方が欠けていることから起きる、というのが複数店舗を運営してきた中での実感です。
- 出店場所は、Web集客の強さ(空中戦)と人通り・視認性の強さ(地上戦)の両方が揃っているかで判断する
- ショート動画・リール中心のインフルエンサー起用は、バズる人ほどコストが上がりフィード投稿はリーチが弱いという構造から、費用対効果が悪化してきている
- その結果、店舗・オーナー個人の自社アカウント発信の重要性が増している。時間はかかるが、外部依存のコスト上昇構造から抜け出せる手段になる
- 地上戦が弱い立地でも、既に地上戦のある既存物件を活用することで、低リスクな出店は可能
まずは自分の店の集客が空中戦・地上戦のどちらに偏っているかを棚卸しし、外部のインフルエンサー予算と自社アカウント育成のバランスを見直すところから始めてみてください。
経営ラボでは、複数店舗運営で実際に使っている集客・決済まわりのツールについても比較記事を公開しています。あわせて「Uber Eats導入の実体験比較」「モバイルオーダーFunfoの導入判断」「決済手数料の比較」もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 新規出店を検討する場合、まず何から確認すればいいですか?
A1. まずその立地が「日常エリア」なのか「遊びに来る・特別な食事をするエリア」なのかを見極めることをお勧めします。そのうえで、その街のWeb検索・SNS経由の需要(空中戦)と、人通り・視認性(地上戦)の両方が揃っているかを確認します。どちらか一方でも大きく欠けている場合、出店のリスクは高くなると考えています。
Q2. インフルエンサーの起用は、もう全くやるべきではないのですか?
A2. そうは考えていません。フォロワー規模が急増していない、これから伸びていく段階のインフルエンサーであれば、費用対効果が見合うケースもあります。ただ、「バズっている人に頼めば安く広くリーチできる」という以前の前提は崩れてきているため、起用する場合は費用対効果を都度シビアに見極める必要があると感じています。
Q3. 自社アカウント発信と言っても、具体的に何を発信すればいいですか?
A3. 業態やお店の強みによって変わりますが、私自身は店舗の商品・空間・接客といった実際の来店体験や、経営者としての判断・こだわりを発信することを意識しています。外部のインフルエンサーに頼らず、自分たちの言葉で発信を積み重ねることが、長期的な資産になると考えています。
Q4. 地上戦が弱い立地でも、出店は諦めるべきですか?
A4. 必ずしもそうとは限りません。私の新潟店・浜松店のように、既に飲食店を営んでいたオーナーの既存物件を活用することで、初期投資を抑えつつ、その場所に既にある地上戦(人通り・地域での認知)に相乗りする形での出店も可能です。ゼロから地上戦の強い物件を探すだけでなく、こうした選択肢も検討する価値があると思います。
Q5. ラーメン屋のような業態にも、この「空中戦・地上戦」の考え方は当てはまりますか?
A5. 基本的な考え方自体は業態を問わず当てはまると思いますが、必要度の強さは業態によって異なります。ラーメン屋はどの駅前でも成立するほど普遍的な強さがある一方、グルメバーガーのような業態は観光地・繁華街等の限定されたエリア以外では極めて出店が難しいというのが私の持論です。日常使いされやすい業態ほど地上戦への依存度は相対的に下がる、と捉えています。
著者プロフィール
グルメバーガー専門店「WORLD BURGER」を池袋2店舗・新潟・浜松の合計4店舗(直営・FC含む、2021年開業・6年目)で運営。食べログ全国100名店(2024年・2026年連続受賞)、2026年ジャパンベストバーガー50選出(ジャパンバーガーチャンピオンシップ予選会)など第三者評価も受けている。店舗運営と並行して、Web集客や購買心理学を実践的に活用した店舗づくりに取り組んでおり、出店場所の選定基準(「空中戦」「地上戦」)からインフルエンサー起用の費用対効果検証、自社アカウント発信への切り替えまで、実際に複数店舗を運営しながら試行錯誤を重ねてきた実践知にもとづいて本記事を執筆している。
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